book SECOND EDITION
ブルーノ・ムナーリ形の不思議 1
正方形
ブルーノ・ムナーリ 著 阿部雅世 訳
ムナーリが開けた
四角い穴から
デザインの世界をのぞいてみよう
第二次世界大戦後の復興に沸くイタリアで、ブルーノ・ムナーリは、正方形にまつわるさまざまな話を独自に集めて編集し、『IL QUADRATO (正方形)』という一冊の本にまとめています。それは、新時代の教科書を模索する試みの一つで、初版は3000部。1960 年にミラノのシャイヴィラー社より出版されました。
日本では、続いて出版された『IL CERCHIO (円形)』と併せ、建築家の上松正直氏の訳で、1971年に美術出版社より出版されていますが、初版原書とともに絶版になって久しく、国立国会図書館や、ごく限られた人々の手元にのみ残る、貴重な伝説の本として知られています。
今世紀になって、ムナーリが育てたイタリアの出版社、コッライーニ出版が、原語版の復刻再出版に尽力します。そして、初版出版から、45年の歳月を経た 2005年、『IL QUADRATO』は、あらためて多くの読者の手に届く本になりました。
この復刻版は、すでに、英語、独語、スペイン語の三ヶ国語に翻訳されていますが、21世紀の日本の読者、とりわけ、ムナーリが愛してやまなかった日本の青少年にも、再びこの本を届けたいというコッライー出版の熱意に支えられ、この新訳日本語版『正方形』も世に送り出されることになりました。
半世紀という時間は、ヨーロッパでは、ものの真価が見え始める時間、すなわち、淘汰されるものは淘汰され、残るものについては再評価が始まる時間であると考えられています。50年前に出版されたこの本の中にムナーリが取り上げた当時最新の技術は、今日の私たちの生活に広く定着しています。また、ムナーリが取り上げた当時新進の芸術家の多くが、今日では世界に名を知られる存在となっており、ムナーリの先見性を、あらためて感じずにはいられません。
ムナーリは、この本の中で、日本の前衛詩人、北園克衛や、日本の木造建築の手法を用いたモダニズム住宅を設計した建築家、増沢洵の仕事も取り上げています。「最小限住居」という別名を持つ増沢洵の自邸は、日本で近年話題になっている、最小のデザイン住宅 「9坪ハウス」 の原形であり、 これは、 半世紀前の提案が、 50年の時間を経て再評価され、 動き始めている例の一つです。
この本には、 「この人たちの仕事を忘れてはいけませんよ」 という、 ムナーリの優しいメッセージが溢れており、 また、 短い解説で紹介されているたくさんの話題は、 「ここから潜って調べてごらん」 と、 ムナーリが用意してくれた、検索の入り口でもあります。
翻訳にあたって、文献やインターネットの検索を通して、また、多くの専門家の力をお借りして、話題のひとつひとつに潜り込んでみましたが、どの穴も底なしに深く、嬉しい発見に満ちていて、それは、数え切れないほどの自分の無知に遭遇しながらも、毎回それぞれの穴から出るのが惜しくてたまらない、幸せな冒険そのものでした。
古代建築から現代美術まで、子どもの遊びから高等数学まて、微生物から渦巻星雲まで、魔方陣から人相学まて……占今東西のデザインの知恵がちりばめられた極上の万華鏡を、ムナーリが開けた「四角い穴」から、何度となく、たっぷりとのぞいていただければ幸いです。 阿部雅世
(訳者あとがきより 抜粋)
阿部雅世訳 ブルーノ・ムナーリの本
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