ムナーリが開けた　

まあるい穴から

デザインの世界をのぞいてみよう

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『IL CERCHIO (円形)』(初版出版1964年)は、ブルーノ・ムナーリが、第二次世界大戦後の新時代の教科書を模索する試みの一つとして、円形にまつわるさまざまな話を独自に集めて編集した本です。ムナーリは、この本に先立ち、『IL QUADRATO (正方形)』(初版出版1964年)という本もまとめており、いずれもミラノのシャイヴェラー社より出版されています。

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この2冊の本の日本語版は、建築家の上松正直氏の訳で、1971年に美術出版社より出版されていますが、初版原書とともに絶版になって久しく、国立国会図書館や、ごく限られた人々の手元にのみ残る、貴重な伝説の本として知られています。

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今世紀になって、イタリアのコッライーニ出版が、原語版の復刻再出版に尽力します。 そして、 初版出版から約半世紀の歳月を経て、 この2冊の本は、 あらためて多くの読者の手に届く本になりました。

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この復刻版は、すでに、英語、独語、スペイン語の三ヶ国語に翻訳されていますが、 21世紀の日本の読者、とりわけ、 ムナーリが愛してやまなかった日本の青少年にも、 再びこの本を届けたいというコッライーニ出版の熱意に支えられ、新訳日本語版『正方形』とともに、この『円形』も世に送り出されることになりました。

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ムナーリは、この本の中で、人が何かを見物するときにできる円陣がその原型にあると思われる、 1950 年代の円形の証券取引所を取り上げています(p. 14)。取引のシステムが大いに変化した現代の証券取引所のブースも円形を保っていますが、そこで中心を向いて円陣を作っているのは、たくさんのモニター画面です。そして、何人もの立会人が、そのモニターの画面に向かって座っており、そこには「全員が外を向いて輪になり、しかも、一つのものを眺めている」 という、人類史上かって存在しなかったタイプの不思議な円陣が生まれています。

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この本に、短いコメントと図版で紹介されている、さまざまな話題は 「ここから潜って、もっと調べてごらん」と、ムナーリが用意してくれた、検索の入り口でもあります。

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翻訳にあたって、 文献やインターネットの検索をして、また、多くの専門家の力をお借りして、話題のひとつひとつに潜り込んでみましたが、どの穴も底なしに深く、嬉しい発見に満ちていて、それは、数え切れないほどの自分の無知に遭遇しながらも、毎回それぞれの穴から出るのが惜しくてたまらない、幸せな冒険そのものでした。

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古代建築から現代音楽まで、魔方円から高等幾何学まで、シャポン玉から永久運動機関まで、和傘からレーダーまで……古今東西のデザインの知恵がちりばめられた極上の万華鏡を、ムナーリが開けた 「まあるい穴」 から、何度となく、 たっぷりとのぞいていただければ幸いです。阿部雅世

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（訳者あとがより 抜粋）

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